いきなり王子様
そして、二人分のコーヒーを淹れた私は、竜也の目の前のテーブルに置いた。
「ブラックで良かったよね?」
「ああ。ありがとう」
ソファに座る竜也の足元に腰を下ろして、ソファにもたれながらコーヒーを取ろうとした。
途端、私の背中から竜也の手が伸びて、私の腕を掴むと、ぐいっと私をソファへと抱き上げた。
「た、たつや……」
竜也の片膝に横抱きされるようにおろされた私は、あまりにも近すぎる竜也の顔に言葉を失ってしまった。
「この部屋、居心地いいな。奈々ってピンクが好きなのか?」
「え?うん。昔からピンクが落ち着くから……でも、私って結構はっきりしたきつい性格だから、似合わないって兄さんたちには笑われる」
竜也とのこの状態が照れくさくて、思わず早口で、俯いた。
確かにこの部屋はピンク系で統一されていて、カーテンやラグ、今コーヒーを淹れたマグだってピンクだ。
ソファカバーも淡いピンクに赤いドット。
座っている竜也とはミスマッチだと、少しおかしくもある。
それでも、竜也は『落ち着く』らしいから、私の方がそわそわしてくる。
「お姫様みたいな見た目の奈々には意外じゃないだろ?
まあ、性格はお姫様からは、ずれてるけどな。
それも魅力だし、俺にはたまんないけど」
竜也は私の顔にかかっていた髪をそっと後ろに梳きながら、嬉しそうに言葉を続けた。
「奈々がこの部屋で生活しているっていうのがよくわかるし、埃一つない部屋を見れば、しっかりとした毎日を過ごしてるのもわかる」
「掃除が趣味だから……」
「それって、趣味に入るのか?」
「私、これと言って熱中しているものがないから、時間があれば掃除して、料理作って……部屋でごそごそと動いてるだけなの」
そんな自分を持て余す事も多いけど、無趣味な人生を過ごす事に慣れているせいか、打開しようとも思っていない。
その延長線で、部屋はいつも片付いているし、料理の腕にも自信がある。