いきなり王子様
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明るい笑い声と共に俺の胸に飛び込んできた奈々を、抱きかかえるように受け止めて、俺の体ごとソファに体重全てを預けると。
「父さんと、兄さんたちだけだよ、この部屋に来たオトコは。安心した?」
俺の胸に響く声は、微かにくぐもっているけれど、それでも楽しげで、言葉通り焦らされている感がある。
この部屋に広がるピンクで統一された世界は、この部屋自体が彼女の生活の殆どを表しているようで興味深い。
見た目だけで言えばお姫様という呼び名がふさわしい可愛いルックスだけれど、その性格は王様のようで。
てきぱきと自分の意思を通して仕事をこなし、男からの誘いにも簡単には乗ってこないと言う噂通りの男前な性格。
そんな彼女に惹かれてからかなりの時間が経って、ようやく彼女のプライベートに踏み入ることができた。
彼女ほどの見た目だから、恋愛経験が皆無だとは思っていないし、俺だってそれを求められると苦笑するしかないけれど。
ここまで女の子らしく、男が好みそうなダークな色合いのものが一つもない部屋を見せられると、それだけで安心してしまった。
独占欲なんてないと思っていたけれど、俺にもそれなりの、いや、かなり強いそれが備わっていたようで、新鮮な思いにとらわれた。