いきなり王子様
困ったように涙目になった奈々は、浅い息を何度か繰り返しながらも、その手を俺の首へと回して、優しく引き寄せる。
「いいのか?」
今にも触れ合いそうな唇に、最後の言葉をかける。
これ以上、抑えられない熱情を抱え、もし今拒否されたとしても、引き返せるのかどうか自信はないけれど、とにかく、それだけを伝えた。
俺の下で、瞳を揺らした奈々。
「……私、だけ?」
かすかに震えた声には隠されていない不安が見えて、俺の胸も少し痛んだ。
焦らして楽しんでいた美散のことを、まだこだわっているとわかって、後悔する。
美散の話をするたびに切なげに目を伏せる奈々が可愛くて、生来の俺の意地の悪さも手伝い、焦らしていたけれど。
とんでもなかったと、気づく。
「奈々だけ。俺の気持ちも体も、全部、奈々にやる」
本気の気持ちをこめて、その唇に注ぎ込むように、伝えた。
その言葉をかみしめるように、しばらく俺の頬を撫でていた奈々は、徐々に気持ちを緩めていき、大きく笑顔を作ると。
「好きになったから、竜也を好きになったから……。
嬉しい。本当に、嬉しい」
俺のお姫様は、俺を虜にするには十分な言葉を呟いて、そして。
「私の全部も、竜也にあげるから、優しくしてね」
不安を隠せない、そして優しい声で、更に俺の全てを掴んだ。
陥落。
ずっと欲しいと願っていた愛しい女との夜は、これまで経験したことのない、温かくて幸せに満ちた、そして忘れられないものとなった。