いきなり王子様
ベッドに移ってからも、俺は奈々の体に触れ続け、彼女が意識を失うまでその熱を味わった。
『好き……』
という言葉を何度も呟きながら、喘ぐ自分を恥ずかしがるように手で顔を隠し。
その度に俺も
『俺も好きだから、全部見せろ』
その手を強引に外すと、快感に震える奈々の体に溺れた。
カーテンがひかれた寝室には、明け方の淡い光が徐々に差し込み、その光は、眠り続ける奈々の体と、部屋の様子を明らかにしていく。
彼女が好んでいるピンクは、この部屋でもあちこちに溢れ、今二人の体を包んでいるシーツも薄いピンクだ。
「俺のお姫様、かわいいな」
思わず呟いて、意識を飛ばしたまま眠り続ける奈々の目元にそっと口づける。
俺から与えられる欲に耐えられず、生理的な涙を流し、それでも俺にしがみついて離れなかった奈々が、愛しくてたまらない。
長い間、俺の心のどこかにいつもいた彼女の存在を、ようやく自分のものにし、未来へとつなげることができた今、ずっとこのままでいたいと、願う。
「俺には、似合わないよな」
今までの自分からは考えられないその感情に照れながら、ふっと苦笑する。
女に本気になったこともなく、女どころか人生に現れる、全ての事に淡々とした感情のみで向き合ってきた俺にとって、奈々だけが心の底から欲しいと思った全てだった。
璃乃と触れ合う時に見せる天使のような微笑みがとどめとなった事は確かだけれど、もう、素直に認めるしかない。
俺は、入社して初めて奈々と会った時からずっと、彼女に惹かれていたんだ。
お姫様と呼ばれるに値する整った容姿から入ったと言われれば、完全には否定できないけれど、その容姿の向こう側にある奈々の優しさと寂しさに取り込まれていったと、今ならわかる。
「悪いな、もう、手放せない」
その頬を、その唇を、何度撫でても眠りから覚める気配のない彼女に、俺の覚悟を染み渡らせるように呟いた。