いきなり王子様
羨ましさを含んだ私の声に、甲野くんは肩を竦めて
「俺にはそんなつもりはなかったんだけど。
まあ、本社に勤務だと思っていたのに、こんな田舎の工場に配属されて、周りに何があるのかも知らないから仕事するしかなかった結果、かなり出世したかもな」
「うん、か、な、り、出世してる。同期の中では唯一役職に就いてるもんね。
本社で相模さんに鍛えられてるわけでもないのに、異例の才能だって噂が回って、一時は時の人だった」
「時の人って、まるで現役引退したみたいで気分悪い。
それに、俺はまだまだ仕事続けるつもりだし」
どこか誇らしげな声音は、きっと今の仕事に満足と充実感を感じてるんだろうとすぐわかる。
表情だって少し緩んだし。
本社でその才能を生かすんだろうと同期のみんなが予想していたけれど、配属されたのは工場。
わが社に入社したからには、司と同じように、相模さんの下で仕事をしたかったんだろうとは思うけれど、結局はこの工場で部材や外壁の設計に携わって結果を出している。
才能があれば、どこにいても活躍できるんだな、と思う。
ただ、最近、甲野くんのように設計の才能に秀でている社員達が少しずつ工場に配属される傾向もあって、全社で話題にのぼることも多い。
今年の新入社員の中からも、設計デザインコンクールで入賞した経験のある数名が工場に配属されているし、工場での業務を強化しているんだろうか?
「ん?どうした?」
「ん?ううん、なんでもないよ。ただ、甲野くんってすごいなって思っただけ」
そう、凄すぎるんだよね。
本社の花形部署である設計部ではなくても、実力さえあれば、こうして涼やかな顔で質の高い仕事ができるんだから。