いきなり王子様
* * *
私が眠っている間に、竜也は近くのベーカリーショップに朝食用のパンを買いに行ったらしい。
私は力が入らない足を無理矢理動かして、『一緒に入って手伝おうか?』と言う竜也の言葉をどうにか無視し、シャワーを浴びた。
体中に残る真っ赤な花に、一人赤面しながらも、夕べ抱かれた幸せな時間を思い出してはため息をついた。
まだ体はあちこち痛むし強張っているけれど、それを感じる度に竜也が囁いてくれた甘い言葉が蘇って。
「うぎゃー」
意味もなく声をあげて、倒れそうになる。
竜也に抱かれて一つになって、ちゃんとした恋人同士になって。
そのことがこれほどの喜びにつながるとは思いもしなかったけれど、それは紛れもない、事実。
夢であっては困る。
大好きだと何度も言わされて、声は掠れているけれど、それでも気持ちは潤い十分で弾んでいる。
「竜也……」
シャワーの音にかき消されることをいいことに、何度もその名前を呟いた。
口にするたびに、好きだと言う気持ちが強くなっていくのは何故だろうと、まるで初恋をようやく経験した中学生の頃のような、ふわふわとした感覚が、私を包んだ。
「奈々?倒れてないか?大丈夫か?」
ぼーっとしながら、夕べの余韻に浸っていると、すりガラス越しに見えた竜也の影。
長い間シャワーを浴びている私を心配して来たようだけれど。
「だ、大丈夫、すぐに出るから、コーヒー淹れておいて」
夕べとことんお互いの全てを見せ合ったのに、何も身に着けていない姿を見せるのは絶対に恥ずかしくて、大きな声で叫んだ。
「ああ、わかった。恥ずかしくても、とりあえず早く出て来いよ」
ガラス越しにも聞こえる竜也の呆れた笑い声に、更に恥ずかしさを感じた。