いきなり王子様
「でも、私……運動神経はいい方だし……」
「無理、運転には運動神経だけじゃなくてセンスもいるから。
それに、たとえ奈々が運転うまくても、暴走した車にぶつけられて怪我することだってあるんだ。頼むから、運転はやめてくれ」
強く言い切る言葉に、何も言い返せないほど、竜也の気持ちははっきりとしているようで、とにかく私が運転する事が嫌らしい。
「奈々が怪我をする可能性を、あえて作る必要なんてないだろ?」
「まあ、そうだけど……」
「俺の家にくるなら、電車で来ればいいし、奈々の家まで俺が車で迎えに行くから。諦めろ」
「あ……うん」
本気の本気で車を買おうと思ったわけではないし、思いつきなんだけど、予想外の強い反対にあって、竜也の新しい一面を知った。
……本当に、私を大切にしてくれているんだな、と。
それほど混んでいない大通りを走りながら、目に入るのは新緑眩しい街路樹。
それは、これまで何度も見た事がある見慣れた景色だけど、こうして竜也の車の助手席から見るとまるで違う緑に見える。
私が大切だと思う人から、本当に大切にされて、甘やかされるという心地よさを知って。
「電車の時刻表、チェックしておくね。週末、仕事が終わったらその足で竜也の部屋に行くから。……最寄駅まで、お迎えよろしく」
竜也が私を心配してくれるのなら、私もその思いにちゃんと応えようと、思った。
きっとこの先も、竜也が反対する事は何もできないんだろうな、と覚悟もした。
幸せで、満たされた覚悟、だけど。
「ん、璃乃に負けないくらい、いい子だな」
ちらりと視線を私に向けた、竜也の優しいその言葉を聞いて、そんな覚悟も悪くないと、心は弾んだ。