いきなり王子様
敵わない人


  *   *   *


休日のショッピングモールは混んでいた。

ようやく駐車場に車を停めて、竜也の衣類やらを買いながら広いモール内をうろうろ。

午後2時になろうかという頃、お腹がすいた私達は、遅い昼食をとるために飲食店街へと向かった。

「何食べたい?俺、麺類が食べたいんだけど」

幾つかのお店を覗きながら、竜也がふと呟いた。

「私も麺類でいいよ。ラーメンもうどんもパスタも大好きだから」

「そっか、じゃあ、あそこのうどん屋にでも入る?」

竜也が視線で示したのは、全国展開している有名なうどん屋さん。

「いいよ。私、カレーうどんにしようかな……」

そう言いながら、お店に足を進めた途端、

「あ、電話?」

私の鞄から響いているスマホの着信音。

「ごめん、ちょっと出るね」

誰からだろうかと思いながらスマホを取り出して画面を見ると。

「あ、椎名課長?」

電話をかけてきたのは直属の上司である椎名課長。

休日にわざわざ電話をかけてくるなんて、一体何があったんだろう。

金曜日、本社から工場へ出張に向かう私に、

『気を付けて行ってこいよ』

と言ってくれた以来だけど。

どうして電話がかかってきたのかよくわからないまま、そっと通りの片隅に身を移し、電話に出た。

「本庄ですけど、何かありましたか?」

『あ、休日に悪い。今、大丈夫か?』

電話の向こうからは、どことなく焦りも感じられる椎名課長の声。

「大丈夫……ですけど」

そう言いながら、ちらりと隣にいる竜也を見上げた。

特に気分を悪くしているようではないけれど、竜也の手は、私の腰に回され引き寄せられた。

そんな当たり前のような仕草、私にはまだ当たり前なんかじゃなくて、慣れてないんだけど。



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