いきなり王子様
きっと、甲野くんに向けている私の瞳には羨望の意識が滲んでいるに違いなくて、そんな感情がどこか恥ずかしい。
才能に満ちた人と、単なる凡人の自分を比べるなんて、それだけで申し訳ない。
まだ入社してからの年数も浅いうちから新商品の開発に携わり、工場に配属されたことも、結果的には吉と出ている。
工場と聞くと、大きなラインで部材を製造している様子が浮かぶけれど、実際の業務は、細かな部材の設計もするし試作品の強度テストも行うし、地域の気候に合わせて特化した性能を組み入れた設計の最前線となっている。
そんな環境にいて、もともと設計に非凡な才能をもっていた甲野くんの能力が開花しないわけがない。
努力家だという印象もある。
慣れない環境に放り込まれて、仕事をするしかなかったというのも嘘ではないだろうけれど、それよりもきっと、甲野くんの仕事に対する前向きな意識が今の彼の立場につながっているはず。
そう思うと、否が応でも自分の状況と比べずにはいられなくて気持ちはどんどん沈んでいくようだ。
「どうした?俺との遠距離恋愛ができるかどうか、悩んでるのか?」
足元からどこかに落ちていくような感覚で切ない気持ちをもてあましていた私に、どこかふざけているような声が聞こえて。
「え、え、遠距離……恋愛……」
呟くように視線を合わせると、そこには余裕のオーラに包まれた顔。
「そ、そうだった……」
遠距離恋愛。
このことについて、聞こうと思ってたのにいつの間に。
違う場所へ向かいそうになっていた会話の軌道修正をしようと大きく息を吸った時。
「甲野さん、やっぱりここにいたんですね」
ノックと共に会議室のドアが開けられて、その勢いのまま入ってきたのは。
どう見ても私よりもかなり若い女の子だった。