いきなり王子様


竜也は、重い感情を抑えているような口ぶりで、そう教えてくれた。

「美散さんのお兄さんが新しい社長……。そっか、美散さんって、お嬢様だったんだね。お金持ちかあ……璃乃ちゃんちもかなり立派な家だったけど、美散さんの実家も相当なの?」

井上開発と言えば、ここ数年で急激に業績を伸ばしている会社だ。

なかなか厳しいリゾート開発でも利益を大きく出していると聞く、今注目の企業。

わが社の株も、いくらか保有していると聞いている。

そんなことを思い出していると、車は赤信号で停まり、竜也の鋭い声が響いた。

「美散は、お嬢様って言われるのを嫌うから、気を付けてくれ。
それに、あいつはもう、井上の家から飛び出して、何の関係もないってスタンスで生きてる」

「あ……ごめん」

竜也の優しく甘い声音に慣れていたせいか、低くとんがったような竜也の声に、体がぴくり、と跳ねる。

怒っているとすぐにわかる口調からは、まるで竜也が別人になってしまったようにも感じられて、近い距離にいるのに、遠く感じる。

そんな、驚きで体が硬くなった私に気づいた竜也は、はっとしたように顔をしかめると

「悪い。怒ってるわけじゃないんだ……ただ、美散は、周囲から色々と誤解されながら嫌な思いをして生きてきたから、つい」

本当に、悪い、と苦しげに話す竜也に、私はどうにか笑顔を作って頷いた。

「私も、軽々しくお嬢様なんて言って、ごめんね。
特に深い意味はないんだけど、お嬢様なんて、私には縁のない言葉だからついつい反応しちゃって。……気を付けるね」

取り繕うように早口でそう言って、へへっと笑うと、竜也は口元だけでほんの少し笑った。

けれど、竜也の目は笑っていなくて、そのことに、私の心は深く傷ついた。

「美散は、家にお金がたくさん入っていくにつれて傷つくことも増えて。
特に株やなんかには嫌悪感も持ってるんだ」

「え……?なんで?」


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