いきなり王子様
「っていうより、お金に対して、だな。
美散は、人の心を変えていくお金っていうものには恐怖と悔しさを持ってる。
美散の父親が、株に人生を変えられてしまったから」
信号が青に変わり、車が再び走り出す。
「夕べも少し話したけど、美散と俺が親密に見えるのならそれは、美散が苦しみながら、でもそれを乗り越えていく時に俺と美散の旦那が、ずっと側で支えてきたからだ。
その苦労っていうのが、美散の父親がはまった投資ってやつが原因」
一本調子でさらっと話す竜也の横顔を、どこか違う人を見るような目で見ている自分に気づく。
さっきまで、私一人を愛して他には誰もいらないという思いを強く見せてくれていたのに、美散さんの事を話し出すといつも、そんな竜也は私が作り出した願望に過ぎないのかと、思う。
夕べ愛し合った後、ぽつりぽつりと話してくれた美散さんとの関係。
ずっと気になって仕方がなかったから、私から聞いて、話してもらったとはいえ、聞いてしまうと余計に不安になったっけ。
別に、今の竜也が美散さんに惚れているというわけではないし、美散さんが得ている幸せを壊そうとも、この先そんな機会があれば、と願っている風でもなかったけれど、彼女に対する気持ちは特別で、他の誰も叶わないと思うには十分なほど、愛しげな顔を見せて彼女のことを話していた。
聞かなきゃよかった、と何度も思った。
ずっと好きだったと私に言って、そして初めて抱き合ったばかりなのに。
そう思ってしまう私は心が狭いのか、と軽く自分を責めたけれど、やっぱり竜也にとっての美散さんは特別も特別で、私が入り込む余地なんて、ないんじゃないかと実感する。
もしかしたら、竜也にとって私は二番手の女なのかもしれない。
そんなマイナス思考全開で黙り込み俯くと。
「……違うから。美散のことは、大切な友達だけど、それだけだ。
逆に、お互い愛し合えていたらどれほど楽だったか……。
いや、それはいいんだ。
まあ、学生時代からの腐れ縁というか、家族のようなもんだから。
奈々が気にする事はない」
その言葉からは、何かを隠しているような気がしないではないけれど。
少し焦っている声を聞いて、その瞬間だけは私の気持ちは浮上するけれど、一度生まれた不安は簡単には取り除けなくて、曖昧に笑顔を返したまま、それ以上は何も言えなかった。