いきなり王子様
* * *
「宣伝部に行って、会社案内と手提げ袋の大きいの、20セットもらってきて。
注文は月曜日に入れるから、先にくれって電話してある」
「あ、わかりました。宣伝部、今日誰か来てるんですか?」
「来てなかったから、俺と同期の男を呼び出した。おかげで今日は俺のおごりで寿司だ」
「……それはそれは」
苦笑する椎名課長は、パソコンから幾つかの資料をアウトプットしつつ、後輩たちが用意した、相模課長がこれまで手掛けた物件の写真に目を通す。
朝からずっと、忙しく月曜日の準備に追われているらしい。
課長にも家族がいるのに、大変だな、と小さく息を吐いて。
私は、椎名課長に言われた通り宣伝部に向かった。
そして、その日の遅くまで慌ただしく働き、どうにか月曜日の相模課長をごひいきにしている御一行様を受け入れられる準備は整った。
「相模はわが社の顔だからな。こうして盛り立てていくのもスタッフ部門の仕事だ」
パソコンの電源を落とし、帰る準備をしている時に、椎名課長がそう呟いた。
確か、椎名課長は、相模課長と同期だったはず。
かたや会社の顔であり、世間では多くの人がその存在を知っている建築界の至宝。
相模課長がわが社の名前を有名にしていると言ってもいいほどだけれど、相模課長本人にはそれほどの気負いもないようで、いつも飄々と仕事に意識を注いでいる。