いきなり王子様


「あ……お寿司か」

三橋さんが言うお店に心当たりはあって、是非ともご一緒したいと思う。

椎名課長の奢りとなれば尚更。

普段から飲みに行く機会が多い部署だけに、今日のお誘いも、会社に来た時からある程度予想していた。

まさに予想通りの展開。

けれど、

「昨日から忙しくて睡眠不足なんですよね。若くないんで今日は帰って寝ます」

残念な気持ちは確かにあるけれど、結局は断った。

昨日から、というよりも金曜日からずっと竜也に右往左往させられて、心身ともに限界だ。

疲労というよりも、余力がなくなってしまったから、一人になってぼんやりとしながら自分を取り戻したいってのが正直な気持ちだ。

「……ふうん。誘えば二つ返事でついて来る奈々が断るなんて、一体……って、まあ。これが理由か?」

「ん?理由?」

「そう。あからさまに見えている理由」

三橋さんの言葉の意味がわからなくて首を傾げると、三橋さんは苦笑しながら人差し指で私の首筋を突いた。

「いたっ。な、何するんですか?」

「何って、キスマークをなぞってるんだけど?」

「は……?き、き、キスマーク……?」

「そう。かなり赤いぞ」

その言葉に、思わず座っていた椅子から立ち上がると、キスマークが見えないように慌てて手で隠した。

三橋さんがなぞっていたあたり、確かに身に覚えがある。







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