いきなり王子様


夕べ、竜也が唇を押し当てて、何度も痛みを落としていたような……朦朧としていた意識の中、体に力は入らなくて、されるがままに受け入れていた。

「ふうん。心当たりあるんだな。できたてに近いうっ血に見えるし、夕べか?
で?お姫様をものにした勇気ある男は誰だ?」

私の体にすり寄って、何故か低い声で問う三橋さん。

何だか普段と違うその様子が妙で、不安も感じる。

「お、お姫様じゃないってのは、三橋さんよく知ってるでしょ?」

「まあな。見かけ倒しのお姫様だもんな」

「でしょ。だから、別にお姫様をものにしたってのはちょっと……」

「違う?」

「うん。お姫様だなんて、思ってなさそうだった」

「へえ」

気付けば、三橋さんは私を机に押し付けて、私の体の左右に手を置いている。

即ち、私が逃げられないようにしているようで、あはは、と笑っても彼は動じる気配もなく。

相変わらず私を探るような視線を向けてくる。

「み、三橋さん?」

震えるような私の声に、一瞬苦しげに眉を寄せると

「俺は、ずっとお姫様だと思ってたんだけどな。できの悪いお姫様?」

「えっと……意味がわかんないんですけど」

くすくす笑う三橋さんに、少し不機嫌になる。

「仕事は手を抜かずに本気でやってるし、上司相手に正論ぶつけては悔し泣きもするし」

「み、三橋さん?」

「それに、酒は強いし、男と一緒にパチンコや競馬に行っては負けたって騒いでるし。お姫様では、ないよな」

思い返すような言葉の羅列に反論もできず、悔しいながらも、それは全て本当のことだと認めてしまう。

そうだ、確かにお酒も大好き。パチンコや競馬の奥深さにも心揺り動かされ、はまりにはまった時期がある。

そう。

私は見せかけだけのお姫様。

自分が一番わかっているんだ、そんな事。


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