いきなり王子様
「三橋さん、婚約者の方とうまくいってないんですか?」
思わず呟いた私に、三橋さんは眉を寄せた。
「は?全然っ?相思相愛で、早く結婚したくてたまんないけど?」
何故そんなことを聞く?と言葉を続ける。
「だったらどうして、私に気持ちが揺れたことがあるとか、気に入ってたとか、簡単に言うんですか?」
「そりゃ、簡単に言えるくらいにしか気持ちが揺れてないからだし、手に入れたいって思うほどに惚れてないからだろ」
「はあ?」
落ち着いた三橋さんの声に、私一人が振り回されている。
私の体を拘束するように近づいて、吐息がかかるほどの距離感。
まるで私に本気の好きという気持ちを持っているかのような言葉を聞かされて。
「結婚をやめて、私を手に入れようとしてるのかって誤解しました」
「んー。それは、ないな。悪い悪い」
「だったら、誤解させるような言動は慎んでくださいよ。
正直、どうしようかと思いましたよ」
はあ、と大きく息を吐いて、もたれていた机から体を起こした。
三橋さんのふざけた言葉に右往左往させられることは、今が初めてじゃないのに、まんまとひっかかってしまった心境だ。
悔しい。
「三橋さんの奥さんになる人って、大変ですね。
自分以外の女の子に、誤解させるような言葉を言っているなんて、知ってるんですか?」
「知ってるんじゃないの?10年付き合ってるし。だけど、自分だけが愛されてるってのも知ってるだろうし、そこも俺にとっては手離せないポイントなんだよな」
……緩い表情で、きっと婚約者の人を思い出しているに違いない。
何度か見た事があるその顔は、彼女を本気で愛しているって隠そうともしていない。
「……前言撤回します。三橋さんの奥さん。きっと幸せです」
今の三橋さんの様子を見ていれば、そう思わずにはいられない。
あまりにも彼女を愛していると、わかりすぎるほどのデレデレ感は半端なものではないし、仕事では厳しさ全開の三橋さんが、ここまでとろけている瞬間を目の前にしてしまうと。
「どうぞ、お幸せに」
そう言うしかない。
本当、悔しいけど。