いきなり王子様
「ああ。心配しなくても、俺は必ず幸せになるから。あいつが俺を幸せにしてくれるって太鼓判押してくれたし」
くすくす笑う三橋さん。
「俺が幸せなら、あいつも幸せらしいから」
「……ごちそうさまです。もう、いいです、お腹いっぱいです。
私のことを気に入ってるとかの戯言は忘れますから、気にしないでください」
肩を竦め、これ以上何も言えないと思いながらの言葉は少し刺々しいかもしれない。
でも、なんだか呆れて、そう言ってしまった。
これで、この話題は終わりにしようと思った私だけど、三橋さんは、
「戯言じゃないぞ。俺が奈々を気に入ってるのも本当だし、幸せになれって思うのも本気。俺の気持ちを揺らした事があるくらい上等な女だとも思ってるから、奈々も忘れるなんて言わずに、自信持ってろよ」
蒸し返すように、そんなことを飄々とおっしゃる。
惚れに惚れてる恋人との結婚を間近に控えているくせに、どうして私にまでそんな甘い言葉をつらつらと……。
「あのですね、三橋さんには奥さんになる人がいるんですから、他の女の人に心揺らしたり、その気にさせるような言葉は言わないで下さい。
私じゃなかったら、誤解しますよ」
「心が揺れるもんは仕方ない。ただ、俺には本気で惚れぬいてる女がいて、そいつがいない人生は考えられないから、どうこうしようとは思わないけどな」
「どうこうしようと思われても困ります」
「だよな。奈々にもとうとう、キスマークを残して独占欲を主張する男ができたみたいだし、俺が奈々を気に入ってる気持ちはそっと隠しておくよ」
その言葉に、はっと首筋を手で押さえた。
竜也に残されたキスマーク、どれほどのものなのか、早く鏡で確認しなきゃ、と焦りつつ、三橋さんにこれ以上見られないようにそっと距離をとった。
「奈々がその男を大切にする気持ちとは別に、他の男に気持ちを揺らしてしまう時、俺の気持ちもわかるだろ」
「そんなこと、ないです。私は竜也に一途なんですっ」
三橋さんの言葉にかっとして、思わず大きな声をあげた。