いきなり王子様
今の私は、竜也以外に気持ちを揺らすなんてこと、考えられない。
恋人がいるのに他の男性を好きになるってこと、信じられない。
私は気が多い女だと三橋さんに思われているようで、何だか腹も立ってくる。
三橋さんは、そんな私の気持ちを見透かしたように笑って、普段同様さらっと軽い口調で。
「どれだけ本気で惚れている相手がいて、そいつしか欲しくなくても。
そいつ以外にいい女やいい男は溢れるほどいるんだ。
そんな相手と知り合って、いい女だなとかいい男だなとか、幸せになって欲しいって思うのは、人間として自然な流れだと思うけど?」
「でも、私は竜也が一番好きで、一緒にいたいと思うのも彼だけだと思うのに。
それは自然じゃないってことですか?」
「好きっていう気持ちの中味の違いだろ?惚れて惚れてそいつと一緒に生きていきたいっていう気持ちと、単純に大切だなっていうのとは別格だ。
まあ、恋愛のいろはを勉強中の奈々ちゃんは、これから知っていくことなんだろうけどな」
「確かに、よくわからないですけど」
拗ねた口調になってしまう私に、三橋さんは面白そうに頷くと。
「奈々みたいに、純粋に相手だけを好きで、一筋になるのは恋愛においては基本だけど。
その相手にだけ気持ちも時間も全て持っていかれると、人間としての大切なものを見逃すぞ。
大切な人は、恋人以外にもいるってこと。
それに、恋人以外に気持ちを揺らしても、結局恋人の側が一番だって思えるなら、それこそそれが、一途って事だろ?」
「恋人の側が一番……ですか」
「そう。俺も、どれだけ綺麗な女に出会っても、あいつの側にいる幸せを手放すなんて考えられなかったからな」
心なしか胸を張って自慢げにそう呟く三橋さんは、心底幸せそうに瞳を輝かせていて、今日の仕事の疲れなんて全く感じさせないほど。
私をかわいがってくれてはいるけれど、仕事は厳しいし、指導はスパルタで怖さ全開。
そんな三橋さんの今の顔は。
「溶けそうですよ。目、下がってるし」
結婚間近の幸せに満ちて、悩みなんて何もないみたいだ。