いきなり王子様


疲れた体で我が家に着いたのは、ちょうど日付が変わる頃だった。

結局、三橋さんや椎名課長に連れて行かれたお寿司屋さんで飲みに飲んで、気分よくタクシーで送られてきた。

タクシーから降りた時、車内から椎名課長に声をかけられた。

『彼氏とのデート中、呼び出して悪かったな。それでも駆けつけるところがお姫様のお姫様たるゆえんだ』

『なんですか、それ』

『いや、本庄にもようやく潤いある日々がやってきたかと思うと俺は嬉しさ半分心配半分。
その、竜也くん、今度俺にも挨拶に来いって言っておけ』

『……三橋さんと同じような事、言わないでくださいよ』

そんなやり取りを何度か繰り返して、ようやく部屋に入った途端、足元から力が抜けて、リビングのソファに倒れこんだ。

お寿司屋さんに付き合うつもりはなかったけれど、引きずられるように連れていかれて一番楽しんでいたのは私だったような気がする。

三橋さんは結婚前の準備が忙しいと言いながらも、どう見てもそれを楽しみにしているようだし、椎名課長も子供が今度ピアノの発表会だとかで、その時の衣装がどんなだとか、自慢げに話していた。

『下の子は、今度水泳で全国大会に出るんだよなあ。誰に似たのか、二人とも優秀なんだ』

な、そう思うだろ?

と何度も聞かれて、そのたびに私は『そうですねー。羨ましいです』

と応えていた。

三橋さんはそんな私たちのやり取りを苦笑しながら見ていた。


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