いきなり王子様


今日、休日出勤した6人で行ったお寿司屋さんは、社内でもおいしいと密かに噂されている穴場のお店で、初めて来た私は、そろいもそろった日本酒の種類の多さに心弾ませ、結構な量を飲んだ……と思う。

自宅に帰って、ソファに倒れこむくらい、には、飲んだ。

「飲ませ上手なんだよなあ」

酔いがほどよく回っている意識の中で、そう呟く。

私だけではなく、その場にいたメンバーみんなに、上手にお酒をすすめては飲ませていた三橋さん。

自分が幸せだからだろうか、かなりご機嫌で。

結局、椎名課長ではなく、三橋さんが一人でお代を払ってくれた。

結構な金額になっていただろうし、結婚前のこの時期、奢られて申し訳なさも感じたけれど。

『幸せなもんが奢ればいいんだよ』

何て太っ腹。

普段から何かと奢ってくれたり差し入れしたりしてくれるけれど、私が奥さんだったら、ちょっと複雑かも、と思っていると。

私に、『竜也くんとやら、今度紹介しろよ』

と何度も。

そんな三橋さんの言葉に、曖昧な笑顔を返し、最後まで頷かなかった。

そりゃ、無理でしょ、無理。

「社内だもん。無理無理」

ソファに顔を押し付けて、ばたばたしつつ、やっぱり、社内恋愛って秘密だよね、と憂鬱にもなる。

まあ、勤務地が違うんだから、それほど神経質になるほどでもないか、と気持ちを整えて、小さくため息を吐く。

あ、お風呂、入らなきゃ。

明日も仕事だ。

……そういえば、竜也、ちゃんと帰ったのかな。

無事に着いたかな。

私を会社の前で下してくれたあと、きっと自宅に帰ったはずだけど。

足元に転がっていた鞄からスマホを取り出して、確認すると、メールが一件。

「気が付かなかった」

慌ててメールを開くと、やっぱり、竜也からのものだった。



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