いきなり王子様
『今、帰った。次の週末は、俺の家に来るか?
着替えやら必要なもの、用意しておけよ。
金曜日の晩、迎えに来て欲しいなら、奈々の家まで行くから連絡して。
車を買うなんてことは、絶対に認めないから、諦めろ』
簡潔と言えば簡潔なその文面に、何だかなあ、と。
少しだけ物足りなさを感じながら小さくため息。
何が物足りないのか、なんてよくわからないけど、週末ずっと一緒にいてあれだけ私を振り回したのに、そんな時間は私の妄想だとでも思ってしまいそうな文面に。
「熟年カップルみたい。まるで連絡事項を並べてるだけじゃない」
思わず文句も飛び出した。
付き合い始めの高校生の甘いメールを期待していたわけでもないけれど、やっぱり、もう少し温かい文面が欲しいと思うのはおかしくないはず。
ずっと前から私を気に入って、見ていたと言ってたのに、私を手に入れた途端、あっさりしたものに変わったその態度に、不安も悔しさも、混じりに混じった感情が私を覆う。
「ずっと好きだったって、言ってたわりに、あっさりし過ぎ」
スマホの画面を睨みながら、ふんっと一言呟いて、人差し指で画面をぽん、と弾いた。
すると、私の指先に画面が反応して、画面はゆっくりと下にスクロールされていく。
『諦めろ』で終わっていた画面、空白部分しか見えなかった画面の下から現れたのは。
『週末ずっと奈々と一緒にいて、それが当たり前になったみたいだ。
悔しいけど、惚れに惚れた。早く来い』
そんな、予想もしなかったとろけそうな言葉の羅列。
「な、何言ってるんだか……。惚れに惚れたって」
竜也の言葉が並ぶ画面から目が離せない。
あっさりとしたメールの内容にがっかりさせられて、その直後にこんな甘い言葉を見せられて。
「もしかして、作戦?」
思わず唸ってしまった。