いきなり王子様


会社の前で私を降ろしてくれた時の竜也は、そんな素振りは見せなかったのに、一緒にいるのが当たり前って、そんな事を考えてたんだ。

美散さんの事をお嬢様だと言ってしまった私に、竜也は短い言葉でそれを否定した後、何も言わずに帰ったけれど、私はずっと気になっていた。

私が美散さんの事を悪く言ったとでも感じたんだろうけれど、竜也が持つ美散さんへの神経質な思いに触れた気がして、私はショックだった。

きっと、竜也の中では美散さんはかなり特別な存在で、私が立ち入る事ができそうもない美散さんの場所があるんだろうと思う。

竜也の特別な人。

会社で仕事をしながらも、ずっと気になっていた。

気にしても仕方がないと、大人になって長い私は、自分にそう言い聞かせながら仕事に集中していたけれど。

結局はお酒に逃げて、半端なく飲んで。

不安な考えをどこかに押しやっていた。

それでも、これから竜也と付き合っていくのならば、美散さんを大切にしている彼を自然と受け入れられる自分にならなければならないのかな、と思うのも確かで。

「美散さん、いい人だったもんなあ」

悔しいけれど、いい友達になれそうな、素敵な女性だった。

お金持ちの家に育ったお嬢様だという雰囲気はなくて、気さくで温かい人。

ため息が出るほど可愛い、竜也が特別な気持ちを抱くのもわかるくらいの上等な女性だから。

竜也が大切に想い、守りたいと思っているに違いない美散さんのこと、意識せずにはいられない。

まあ、簡単に言えば、嫉妬なんだけど。

それでも、気持ちがどん底まで落ち込んでいないと感じるのは、今日三橋さんと交わした言葉のおかげかもしれない。

惚れぬいている婚約者がいても、違う次元で大切に思う人がいるし、私に気持ちを揺らした事があると言っていた。

聞いてすぐには理解できなかったけれど、三橋さんの言葉を竜也に置き換えてみれば、そういう事なのか、と自分にいいように解釈したりして。

竜也にとって、美散さんは大切な人なら、それはそれで仕方ないのかなと少しだけ気持ちも浮上した。

ほんの少し三橋さんに感謝して、そして。

「いいこと言ってくれるね。三橋さん」

意外に格好いい三橋さんに、気持ちが揺れた。

ふふっ。こういうことなのかな。



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