いきなり王子様


製造統括部。

私が勤務する住宅メーカーの部材を製造する、いわゆる工場を統括する部署だ。

住宅建設に必要な外壁や屋根、柱や梁。

それぞれを製造して現場に出荷するのが大きな流れで、会社の中でも一番現場に近い位置に存在する部署だと思う。

経理部に所属している私が、この工場に来る機会は殆どなく、新入社員の研修の一環として連れてこられて以来かもしれない。

大きな部材を製造するラインが工場内に幾つもあるという事は、それだけ広い敷地を要するという事で、本社から離れた、どちらかというと郊外に建てられている。

見渡す限り畑が広がる緑豊かな場所に建つ工場は、この近辺の人々にとっても仕事を得る貴重なもの。

工場で働いている多くの人は、車で工場に通勤し、兼業で農業を営んでいる人も多い。

「お、本社から出張かい?ご苦労様」

のんびり、とはまた違う穏やかな声音に振り向くと、作業服に身を包んだ男性が廊下の向こうで笑っていた。

「あ、本庄です。本社経理部IR課の本庄奈々です。今日は……」

慌てて頭を下げて挨拶をすると、ゆっくりと近づいてきたその男性は

「ああ、聞いてるよ。来週の工場見学会の件だろ?」

ふむふむと頷いて、緊張気味の私の気持ちをほぐしてくれた。
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