いきなり王子様
「悪い、今日はこいつを送っていくから別の人に送ってもらってくれ」
甲野くんは、女の子の手をやんわりと外しながらも、きっぱりとそう言って。
それまで可愛らしい笑顔に満ちていた彼女の事なんて気にする風でもなく
「俺、今日は実家に帰るんだ。だから家まで送ってやるよ」
あっさりと、私にそう言った。
「え?実家って、一体私になんの関係が……?」
突然向けられた視線に慌てて、私は自分で自分を指さしながら頭を傾げた。
甲野くんが実家って?で、どうしてそれが私を送る事に繋がるんだろう。
甲野くんの表情からは何も読み取れないけれど、その隣で不機嫌な顔を隠そうともしない女の子の気持ちはよくわかる。
『ちっ』
心の中ではきっと舌打ちをしているんだろう。
きっと、今日の帰りも甲野くんに家まで送ってもらえる事を楽しみにして、且つそれが当然だとでも思っていたのか、私へ向ける表情はあまりにも荒々しい。
それまで甲野くんにふりまいていた魅力溢れる『可愛い女の子』という姿はどこかに消えてしまった。
まあ、彼女が甲野くんの背後に立っているせいでその表情を彼に見られない事による気の緩みによるんだろうけれど。
本当、どこまでも当たり前の可愛い女の子を頑張ってるんだな。
私とはまるで違う素直な感情を露骨に見せられて、
「いいな」
思いがけず、私の口から言葉がこぼれた。