いきなり王子様
* * *
「なあ、さっき、工場の女の子に『いいなあ』みたいな事を言っただろ?
あれってどういう意味だ?」
「え、『いいなあ』?って、一体なんだったっけ・・・・・・?」
ぼんやりとしていた私に、不意に甲野くんの声が聞こえて、慌てて体を起こした。
乗り心地のいい助手席に包まれて、流れていくのどかな景色を眺めていた私は、甲野くんが何を言ってるのかがすぐにはわからなかった。
家まで送ってやると言う甲野くんの言葉を最初は遠慮して断っていたけれど、意外に強引な口調に気圧されて同乗する事となった。
電車に2時間揺られて帰るよりも、もちろん楽だしありがたいけれど、その展開には驚くしかなかった。
工場を出てから半時間ほど。
高速はそろそろ渋滞し始めて、テイルランプがほどよく眩しくなってきた。
「お姫さんの事、かなり睨みつけてたけど、悪かったな。
まだ高校を卒業してすぐの女の子なんだ。子供だと思って流してやってくれ」
スピードを落としながら、徐行運転。
甲野くんは、軽く笑いながらそう呟いた。
「あ、彼女が睨んでたの気付いてたんだ。彼女、甲野くんの後ろに立ってたから、気付いてないと思ってた」
「ああ。お姫さんの後ろにあった窓ガラスに映りこんでたからな。
なんとなくわかったんだ。それに、彼女は俺に近づく女には手厳しいから」
まだまだ若いよな。
ため息まじりの声に、私は眉を寄せた。
「高校を卒業したばかりでも、彼女は女の子じゃなくて女だよ。
子供だと思ってたら痛い目見るんだから。甲野くんの事を相当気に入ってるみたいだし、若いとか若くないとかは関係ない」