いきなり王子様
甲野くんの軽々しい言い方に、思わず呆れた声が出る。
私を厳しい目で見ていたあの彼女の瞳からは『女の子』と形容するにはあまりにも深すぎる思いが感じられた。
たとえ未成年であっても『女』なのに。
「彼女はとっくに恋愛の機微を受け入れている女だと思う。
甲野くんを自分ひとりで独占したい、愛してもらいたいって真剣に思ってる」
「真剣……とは思わないけどな。まあ、俺を気に入ってるのはわかってる」
「どうして真剣じゃないって思うの?」
「真剣って言葉の定義にもよるな。彼女、妹尾さんっていうんだけど、俺の年収とか将来性が気に入ってるんだと思う」
混んでいるせいか、なかなか車はスピードを上げる事ができない。
そんな中、淡々と話す甲野くんの横顔からは何の感情も見えなくて、私は彼の言葉にどう答えればいいんだろうか。
「会社での俺の立場は、謙遜せずに言えば、頑張りに頑張ったおかげでなかなかいいポジションなんだ。
お姫さんみたいに本社のスタッフ部門にいれば知ってるだろうけど、工場の設計担当で実績をあげれば、出世のスピードはかなり速いし、あと数年もすれば本社にご栄転だ」
ちらりと私を見た甲野くんは、のどで小さく笑うと
「その事を、彼女、妹尾さんは知ってるんだ。
だから、いずれ俺が本社に異動になる時があれば一緒について行けるオプションも含めて俺に真剣ってことだ」
「オプションって、何だか軽い……」
「軽い、か。まあ、彼女の俺への気持ちはその程度の重さだってことだ。
だから、彼女の事は気にしなくていい」
「ん……」
どこか納得できたようなできないような。
複雑な気持ちではあるけれど、甲野くんが話してくれた事からはどこか寂しさが感じられて切なくて、それ以上深い部分を聞ける雰囲気ではない。