いきなり王子様
どちらかと言えば、本社で設計を学んで出世していくのが設計担当達の王道。
私たちの同期の中では、司がその筆頭で、彼の実力の高さもあってか相模さんの後継者の有力候補だと言われている。
入社してすぐの研修では、司と並んで甲野くんも相模さんの下で育てられると思っていたのは私だけではなかったはずで、甲野くんの配属先が工場だとわかった時には誰もが耳を疑った。
工場での設計が、本社でのそれに比べて格下だとは言わないけれど、わが社で出世していこうと思うのならば、本社の中ででほぼ完了させている商品の企画設計に携わって実績をあげなければならない。
出世というのを、とりあえず取締役に就くという事に絞れば、そうなんだけれど。
そして、全国に幾つかある工場での設計で功績をあげれば、本社に呼ばれて出世の道を歩む事となる。
相模さんと同じ大学を出ていた司と、その大学と並んで建築の世界では有名な教授がいる大学を出ていた甲野くんは、二人とも本社採用になると思っていたし、きっと本人もそう思っていたに違いない。
けれど。
「工場に配属された時、俺はどう思ったと思う?」
どこか面白そうに私に尋ねる甲野くん。
「……えっと、ビックリ……した?」
「まあ、そうだな。本社かなあって思ってたからびっくりしたんだけど。
それ以上に思ったのは、『これが俺の人生だよな』……そんな事を思った」
「そ、そうなんだ」
徐行運転を続ける甲野くんは、特に私を見るでもなく、前方を見ながらくすりと笑い、話を続けた。
「思いがけない展開っていうか、自分が予想していない道に放り出されるんだなあっていうか。楽な人生には縁がないなあって思った」