いきなり王子様
「遠くまでご苦労様だね。帰りが遅くならないように、早速始めようか」
「あ、ありがとうございます」
廊下で私に声をかけてくれたのは、工場長の新見さんだった。
50歳くらいの優しい笑顔が魅力的な、それでいてやり手だと全社で評判の人。
こうして直接言葉を交わすことは初めてだけど、研修で工場に来た時や、本社での会議の席で遠目に見た事がある。
通された会議室は20人ほどの席が用意された広めの部屋で、窓の向こうに広がる畑の緑が眩しい。
「こんな田舎にくると、不思議な気持ちになるだろう」
席について、空も空気も綺麗な景色に視線を向けていると、新見さんが笑った。
「あ、いえ、すみません。普段見慣れない景色なもので、つい」
「だろうね。本社は都会も都会、高層ビルジャングルの中にあるからね。
逆に僕が本社に行くと、それが不思議だからわかるよ」
私が普段勤務する本社は20階建の自社ビル。
大きくそびえる塔という印象が拭えない、巨大な建物だ。