いきなり王子様
* * *
「来月の工場説明会で案内する場所はここに書いてある通り。
安全面と社外秘として管理されている場所を考えたらこれが限界だな。
当日は工場から説明要員として何人かあたらせるから、ま、段取りの説明は彼らとやってくれ」
「わかった。当日配布する資料は経理部で用意して、三日前に社内便で送るから、申し訳ないけど社内封筒に分けて入れてくれるかな」
「ああ、わかってる。うちが用意する資料もあるから一緒にやっておく」
とりたてて愛想がある声ではないせいか、やる気も感じられないけれど、入社して以来時々会う彼の淡々としている様子にもようやく慣れた。
「あ、当日、甲野くんは?」
机に広げていた幾つかの資料を片づけながら、ちらりと視線を向けた。
パソコンに何やら入力している手を休めることなく、
「俺?一応顔は出すけど、直接の説明要員でもないしな。
他に仕事が入ればそれも無理だし。当日次第だな」
あっさりと呟くだけだ。
工場の会議室での約一時間、工場見学会の担当者である私と、工場側の担当者である甲野くんは当日のあれこれを話し合っていた。