いきなり王子様
甘い、切ない、愛しい
* * *
一晩でどうにか落ち着いたと思っていた私の気持ちは。
「おはよう」
そう言って助手席のドアを開けてくれた竜也の顔を見た途端再び跳ねてしまった。
当たり前のように私が住むマンションの前で待っている姿を見ると、その瞬間にどくどくと流れる血液の音が聞こえる錯覚を覚えるくらいに。
体は熱くなった。
夕べ、どこに向かっているのかわからない中で、私をキスで攻め続けた竜也。
その後『今はおとなしく撤退する』と言って、私の家へと送ってくれたはいいけれど、『明日行く所があるからついて来い』と言い放ってそのまま帰って行った。
竜也の感情全てを与えられるような深いキスを何度も味わっていた私の体は、遠くなる竜也の車のライトを見送りながら、興奮状態が続いていた。
竜也が私の体を撫でる度に体温は上昇し続けて、部屋に入った後も私の体全体が疼いていた。
……なのに。
それは私一人が味わった情けない思いで、その原因を作った竜也は全く何も感じていなかったかのように爽やかに私を待っていた。
スーツではない、普段着の姿は更に彼を魅力的に見せていて、昨日疼いた感覚が再び私を包みこむ。
「ここから遠くないんだけど、とりあえずその前にモーニングでもいいか?
朝から何も食ってないんだ」
近くの駐車場に置いてきたという車に向かって歩きながら、そう呟いている横顔には、夕べ彼が浮かべた熱情は全く残っていない。
少し遅れて歩く私を気遣う様子もない後姿からは、夕べの『恋愛しよう』って呟いた痕跡すら見当たらない。
私は、少し切なくて、そして悔しさも抱えながら、その後ろ姿について行った。