いきなり王子様


車に乗り込むと、途端に夕べの事を思い出してしまう。

考えてみれば、夕べこの車から降りてからはまだ数時間しかたっていない。

お互いの服装が変わっただけで、なんだかずっと一緒にいる気がしてそわそわする。

けれど、今朝会ってからずっと平然としたままの竜也を見ると、夕べの事は幻か何か?

私の勘違いなのかと、不安にもなる。

シートベルトを着ける手が緊張で震えているのを隣の竜也に知られてしまわないように、手早く終えて顔を上げると。

「……えっ?……ん、な……に……んっ」

気付けば竜也の唇が私の唇を覆っていて、軽く噛むように這っていた。

私の肩に手を置いて、吐息交じりに私の口に差し入れる舌は夕べの熱い時間を思い出させるには十分。

やっぱり、夢でも勘違いでもなかった、と感じて、予想外の安心感が私の中に溢れてくる。

何度か絡ませては、その度に逃げる私の舌の動きにくくっと笑い声を上げると

「夢じゃないから。俺がこうして奈々を隣に置いてるのは現実だ」

ん?と私の顔を覗き込みながら、意地の悪い笑顔を私に向けた。

「な、何、突然……」

慌てて言葉もうまく言えない私に、竜也の余裕に満ちた声が響く。

「夕べの展開が、夢か幻か、それとも勘違いか、なんて考えてるのが露骨に顔に出てたからな」

「か、顔に……」

「そう。奈々って、表情で会話してるよな。昨日美散に向けた切なげな顔は写真にとっておきたかったよ」

「……」

「まあ、奈々がどう受け止めるのか感じながら美散との仲を見せつけてたのもあるけど、本当、俺が予想してた通りの顔して泣きそうになって。
くくっ……あれだけで腹いっぱいになったな」

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