いきなり王子様


「腹いっぱい……」

竜也が面白そうに夕べの事を話す様子は、私にはまるで信じられない光景。

入社以来彼に対して抱いていた『クールで穏やか』というイメージは一気に崩れた。

どちらかと言えば寡黙、そして笑う事も少ないオトコだと思っていた私は、自分の認識の甘さに驚いて何も言えなくなった。

同期だとはいえ、勤務地が違うと知らない事は多いんだ。

相変わらず私の頬を優しく撫でながら笑っている竜也は、

「王子様は王子様でも、真っ黒な王子様だろ?
気になるオンナが俺の事で泣きそうな顔してるのが大好きな腹黒い王子様」

含み笑いをしながらの声に、ほんの少しだけ私の気持ちが緩む。

「竜也……が真っ黒な王子様だったら、私は……」

「灰色のお姫様だな」

「え……?」

私も見た目とは違う、真っ黒なお姫様だと言おうとしたのに、それを遮って竜也の言葉が返ってきた。

灰色のお姫様。

それって一体どういう意味?

白でも黒でもない、どんなお姫様だ?

首を傾げる私に、竜也は小さく笑って。

「本当は純粋で素直なお姫様なのに、それが気に入らなくて突っ張ってるお姫様」

「は……?純粋で素直って、私の事?」

予想外の言葉を話す竜也に、目を見開いて問い返した。

私の性格が、純粋で素直だなんて、私には真反対のイメージだと思うんだけどな。

すると竜也は、からかうような笑顔を作ったその瞬間、私の唇に軽くキスを落として、額と額をコツンと合わせた。

「ほらな、今ですら驚いてどうしようかテンパってる気持ちがありありと顔に出てるし、ごまかせない。
自分の思いにやたら素直なオンナなのに、お姫様って言われる事にやたら反応しては無理にそのイメージから逃げようとしてる。……無理なのにな。
だから、灰色のお姫様だ。結構いいネーミングだよな」







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