いきなり王子様


モーニングを食べたいと言う竜也が連れてきてくれたのは、全国展開している有名なコーヒーショップだった。

私ももちろん何度も利用したことがある、低価格でメニューも豊富なお店。

夕べ、美散さん夫婦が経営しているお店でおいしい夕食をいただいた印象も残っていたせいか、今朝も、どこか知る人ぞ知るというような個人経営のお店にでも連れて行ってくれるのかと思っていた。

それなのに、案外オーソドックスなお店に連れてきてくれたんだな、とおかしくなった。

小さく笑みを浮かべながら、コーヒーを飲んでいると、向かいの席でトーストを食べていた竜也が怪訝そうに私を見た。

「何?思いだし笑い?」

「ううん、違うよ。なんだか、意外だなあと思って」

「意外?もしかして、俺?」

厚切りのトーストにマーガリンをたっぷりと塗っているその手元を見ていると、何だか私もお腹がすいてきたな。

ちゃんと家で朝食はとったのに。

「おい。聞いてるか?」

竜也のトーストをじっと見ていると、竜也が私の目をのぞきこんだ。

「もう一枚あるから、食べるか?」

「え?いいの?」

「ああ。そんなに物欲しげに見られたら、やるしかないだろ。
熱いうちに食え。うまいぞ。この、マーガリンもオススメだから、ダイエットだの言わずにたっぷりと塗れ」

竜也は、バスケットに残っていた一枚のトーストを私にくれると、マーガリンが入っているガラスの小皿も私の手元に寄せてくれた。

確かにおいしそうなトーストに見入っていたけれど、まさかくれるなんて思わなかった。

「本当、意外な人だね、竜也は」

指令通り、たっぷりのマーガリンをトーストにのせながら、ふと呟くと。

「だから、その『意外』ってなんだよ?自分ひとりで納得して会話を終了させるな」


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