いきなり王子様
「一人で終了させるなっていう言葉、そっくりそのまま竜也に返すよ」
とろけるマーガリンがトーストの上を泳いでいる様子を見ながら、そう言った。
「はあ?俺に返すってどういう事だよ」
「え?だって、昨日からずっと自分の思うように私を振り回して、一人で納得してるだけで私には何も話してくれないし。
一人で恋愛はできないんだから、私と恋愛したいなら、私の気持ちも聞いて欲しいってこと。
まあ、何となく竜也に悪気はないんだろうなあってわかってきたけど」
それだけ言って、私はトーストにかじりついた。
4枚切りの厚みのトーストは、表面がほどよくカリッと歯ごたえよく、中はふわふわもっちりで。
「んー。おいしい。どうしてモーニングのトーストってこんなにおいしいんだろう。家で同じ厚さのトーストを焼いてもここまでおいしくないのに」
ぶつぶつつぶやきながら、どんどん食べている私を見ている竜也の視線は
「え?何笑ってるの?」
彼には珍しいほどに優しい笑顔。
どちらかと言えば冷静なイメージの彼の甘い笑顔は珍しくて、貴重かもしれない。
「いや、本当、大きな口を開けて食べるよな。今まで一緒に食べた女はこの厚いトーストは食べにくいからいらないとかぶつくさ言ってたからな。
……奈々だって、俺から見たら、意外の塊だ」
「ふーん。モーニングを一緒に食べた女が、やっぱりいるわけだ」
「は?そこに食いつくか?」
「そうだね、食いついたね。でも、今まで何もなかったって言われてもそれはそれで妙だし、まあ、健全な大人のオトコだもんね。当然か……」