いきなり王子様


いい年した大人なんだから、過去の女の存在なんて当然だ。

けれど、口に出してそう言ってはみても、やっぱりいい気分ではない。

昔の恋人の存在が露呈されて、何だかもやもやする。

薄く笑っている竜也にもいらいらするし。

「いいんだけどさ、別に」

最後の一口をぱくりと食べて、ほんの少し物足りない気持ちを感じた。

その物足りなさは、トーストへのものなのか、平然と私の言葉を受け止めている竜也に対してなのか、微妙だけど。

「で?俺がどうして意外なんだ?」

私にとっては大したことではないことも、竜也はかなり気になっているらしい。

同じように、昔の彼女の事が気になるのは私だけで、竜也の中では特に気にする事でもないらしい。

それが気に入らなくて、目の前の竜也を見ながら、小さく息を吐いた。

「意外だってさっき言ったのは、このお店のように、よくあるお店で普通に食事をしているのが、意外だって思ったの。
こだわりが強そうだし、みんなと一緒って嫌いそうだし。
だから、意外だし、それにほっとしたの」

私の機嫌はそれほどよくないまま、とりあえず竜也の疑問に答えた。

一気にコーヒーを飲み干して、これでいいでしょ?

とでもいうように視線を向けると。

「こだわり、あるぞ?言っただろ?ここのマーガリンはオススメだって」

苦笑しながら竜也が呟いた。

「このマーガリンは、俺の大学時代の友達の会社が作ってるんだ。
正確には、友達が将来跡を継ぐ会社、だけど。
もともとうまいマーガリンだけど、友達が作ってると思うと愛着も湧くだろ?
それが俺のこだわりだけど?」



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