いきなり王子様
私が綺麗に食べてしまったマーガリンは、本当においしかった。
バターと比べると、味が淡泊で物足りないと感じるものもあるけれど、さっき食べたものは甘みと塩味のバランスと、バターにはないさっぱりとした口どけ。
「本当においしかったよ。私、このお店に来てもあまりモーニングって食べないけどこれからは定番にしようかな」
これから、といいつつ、今すぐにでも注文して食べたいなと思うくらいだ。
まあ、それはやめておくけれど。
「俺の友達が作ってるという事を別にしてもうまいからな。モーニング食べる時は大抵この店。結構あちこちにあるから見つけやすいし」
「あ、竜也のいる工場の近くにもあったよね」
工場の近くに住む独身者たちを狙って、ファストフードやカフェ、定食屋さん。
広い駐車場を完備したお店が幾つもある。
「俺みたいに一人暮らしには便利だからな。工場の同僚たちとも店でよく顔を合わせるし」
「だろうね」
サラダを食べて落ち着いたのか、コーヒーを飲みながらゆっくりと私に視線を移した竜也は。
「よく店で顔を合わせるんだ、女とも」
意地悪な笑顔と声。
椅子の背に体を預けながら私を探っているようにも見える。