いきなり王子様


「工場を案内するなら、とりあえず安全に気を付けろよ。大きな機械も多いし、社外の人間はどんな行動をするか予測不可能だからな。それだけだ」

一瞬鋭い視線を向けられて、はっとする。

「事故でもあれば、大事になるし、IRどころじゃないぞ。極端に言えば命にも関わる事だから慎重に。後は工場説明会に慣れている社員に任せればいい」

「うん。投資家の人が怪我したら大変だし、気を付けるよ」

小さく頷いた私に、甲野くんは眉を寄せて見るからに機嫌が悪くなった。

「投資家だけじゃない、お姫様、お前もだ」

「あ、うん、わかってる」

突然『お姫様』と言われて、戸惑いがそのまま声に出た。

入社した時に同期につけられたあだ名を呼ばれて、普段は何も思わないけれど、なかなか会う機会もなかった男性、まあ同期だけれど。

そう呼ばれてちょっとどきっとした。


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