いきなり王子様


「私一人で奢れる人数じゃないから、経理部の先輩も誘って大宴会になっちゃって。平日の晩にそんな事したから、翌日は飲み過ぎで頭は痛いし仕事にならなかった」

もともと経理部は仲が良くて、普段から宴会は頻繁にあるけれど、他部署のメンバーも加わったその晩は、かなり盛り上がった。

「笹原って、女の子に意外にもてるんだね。
たまたま参加してくれた経理部の女の子たち、みんな笹原と連絡先の交換しようとしてたもん。笹原は面倒くさいって言ってやんわり断ってたけどね」

「だな。あいつ、女には結構一途にいくタイプだと思うぞ」

「……ん?」

「工場でもよく誘われてるけど、曖昧に笑って流してるのをよく見る」

「へえ。あんなに生意気な奴でも、結構純なんだねー。
私に対してはいつも『見かけ倒しのお姫様』だの『黙っていればそれだけで金とれるんじゃねえの?』とか言ってくるのに。
ふうん、今度会ったらからかってやろうっと」

高飛車な口調で笹原に言われた時の悔しさを思い出して、次第に腹が立ってくる。

まるで私が何もできない、お飾りのお人形とでも言うような、そんな馬鹿にした口調。

「本当、あいつは……いつか仕返ししてやる」

一瞬で気持ちが昂ぶった私は、思わずそう呟いた。

ぐっと握りこぶしを作ってしまい、生意気な男の顔を浮かべて。

「あ、竜也もばんばんあいつに仕事回して鍛えてやってね。
で、社会は厳しいんだってこと、わからせてやって」

隣で私を見ている竜也に、大きく頷きながらそう言うと、

「無理」

え?

即答?

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