いきなり王子様
「悪い。そんな顔をさせるつもりはなかったんだ」
「……え?」
私の肩を抱いている竜也の手にぐっと力が入った。
私を守るように温もりを落としてくれる仕草に、はっと視線を上げた。
「その見た目だから、容赦のない子供の言葉に泣かされたんだろうとは思ってたけど。……今も、まだつらい、よな」
「あ、うん……そうだね。なかなか忘れられないかな」
まわり全てが敵だったわけではないし、親友と呼べる友人だっていた。
その親友たちや、私をちゃんと見てくれ接してくれるクラスメートの方が多かったのも確かだけど、それでも私を傷つける事を目的とした言葉が落とされる度心は閉ざされていった。
そんな過去の記憶、最近では思い出す機会はほとんどなかったけれど、体にしみこんでいる苦しさは、やっかいなもので。
「お姫様みたいだねって、言われる度に、どきっとする。
そのことで私に敵意を持つ人がいるって、小学生の頃散々知ったからね」
ほんの少し震える声を悟られないよう、早口で呟いた。
軽い口調を意識して、大人になった今、笑って流せると、そう竜也が思ってくれるように。
けれど。
「……お姫様。同期のみんなにもそう言われて、どきっとしてたか?」
私を気遣う声。
「最初はどきっとしたけど。もう、大人だし。それに、見た目どおりお姫様みたいにかわいらしい性格じゃないっていうのはすぐにばれたし。
平気だった。女王様もいたしね」
ふふっと笑う私に、しばらく複雑そうな顔を見せた竜也は、何か言いたげにしていたけれど。
小さく息を吐いて、視線を落とした。
そして、私の体両腕で抱え込み、抱きしめてくれた。