いきなり王子様
その不機嫌な顔を見ながら、竜也でも感情を露わにする事ってあるんだな、と気づいて意外に思う。
私の事を振り回すように、いきなりの展開を強いてくる彼に驚かされてばかり。
同期としての関係だけで付き合っていた私には、そんな彼が意外過ぎて仕方ないけれど、今目の前に見える表情も初めて見せられるものに違いない。
私をその腕に収めながら、少し口元を歪めたその瞳から感じるのは、まるで。
「妬いてるの?」
探るように聞いてみると、竜也はその途端眉を寄せる。
「悪いか」
拗ねたような、それでいてそんな感情に照れているような声が返ってきた。
「笹原が奈々を気に入ってるのは、かなり前から気づいてたけど、こうして奈々を俺のものにするって決めたんだから、あいつに容赦はしない」
「俺のものって……私は物じゃないし、容赦はしないって、新人相手に何熱くなってるの……」
鋭い視線の竜也に、思わずたじろいでしまう。
こんなに、自分の想いを口にする人だったっけ?
どれほど厳しい状況だって、飄々と冷静にこなす、感情を隠した男だという印象が強いのに。
そしてそれは、社内の誰もが彼に持つイメージだというのに。
今の竜也に、そんな先入観を抱くなんて全く無理だ。
まだ未成年の頃の青い感情がそのまま顔に出ている。
「奈々が、まだはっきりと俺を好きなわけじゃないってわかってるけど、それでも俺にこうして抱かれても満足そうに体を預けてくれるほどには気持ちが傾いてきてるんだ。
この大事な時に、他の男に持っていかれてたまるか」