いきなり王子様


「確かに、俺も最初は奈々の綺麗な見た目に目がいって、気にかけるようになってたんだけど、綺麗な女なんて見飽きてたからな」

「え?見飽きてた?」

竜也のこぼした言葉に、強く反応してしまった。

そんなに多くの綺麗な女性と付き合ってきたってことなんだろうか?

「勝手に誤解するなよ。今まで女と付き合った事がないとは言わないけど、それほど多くない。俺は、一度好きになったら、長いんだ」

長い。

という言葉の向こう側に、何故か美散さんの顔が見え隠れして、胸が痛かった。

そう言えば、竜也のお姉さんが、この家に竜也が連れてきた事がある女の子は美散さんだけだって言ってたっけ。

それってやっぱり、竜也との関係の深さを感じるには十分なもの。

そして、美散さんに向けていた優しい視線を思い出す。

でも、美散さんは結婚しているし、竜也は彼女とはなんでもないと、そう言っていた。

その言葉に縋るように、どうにか気持ちを保ちながらも、不安は顔に出てしまったんだろう。

「くくっ。そんな不安な顔するなよ。どうせ、美散の事を考えてるんだろ?」

「……っ」

「意外になんでも顔に出るぞ。奈々って、自分が思ってるよりも感情豊かな表情だから。ま、俺にはわかるっていうか。
綺麗な女はよく見てきたからな……芝居する女も」

「どういう事?」

「ん?俺、大学の頃にモデルの仕事をしてたんだ。
だから、見た目が綺麗すぎる女なんて見飽きるくらいに見てきたんだよ」

「モ、モデル?」

「そう。大学の学費稼ぎにモデルしてたんだ。
会社でも、それなりに知られてる事なのに、知らなかった?」

「……うん。初耳」





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