いきなり王子様
「そ、そんな事ないけど、仕事できる人だっていう事は知ってたし」
慌てて答える私に、竜也は更に笑いながら。
「まあ、いいよ。それも奈々のいいところだし。
俺が一方的に、ここ何年か奈々を見てきただけだしな」
怒っているふうでもない声に、少しほっとした。
でも、今竜也が教えてくれた話、ちゃんと考えれば考えるほどに信じられなくなる。
私が今まで『お姫様』という呼び名に敏感に反応して、恐怖にも似た感情を抱えていた事を察してくれていた事。
そして、そんな自分の見た目を理由に他人から嫌われる事が怖くて自分を作ってきた事を見抜いていたなんて。
そんな人に出会ったのは今まで数少ない。
学生時代からの親友数人と、会社に入ってからは、同期の真珠くらいで。
真珠に至っては、彼女自身『女王様』と呼ばれるその見た目に辟易しながらも、ちゃんと受け入れて一生懸命に生きている姿勢が強くて、羨ましくもある。
「俺が奈々を好きになったのは、昨日今日の話じゃない。
同期会で顔を合わせた時や、本社に出張で行った時にすれ違ったり。
……まあ、最初は好きっていう感情はなかったけどな。
あの日、奈々が話してるのを聞いてからは、もうだめだった」
声音が変わった。
半分ふざけているような、照れた気持ちを隠しているような軽やかな口調だったものが。
「奈々が、泣きながら話している声が、俺の中に居座って、どうしようもなかった。あの日から、俺は奈々を手に入れたくて仕方なかったんだ」
重く切なく、私にはもう、竜也から逃げる選択肢なんてないと、そう告げているような、声に変わった。
「い、一体……何のこと?」
竜也の話す意味が、わからなくて、少し、怖い。