いきなり王子様
「歯みがきのおねえちゃんだ」
目の前の女の子は、嬉しそうな声で私ににっこりと笑ってくれた。
まっすぐに伸びている黒髪は、つやつやで、どうして子どもの髪ってこんなに綺麗なんだろうと、以前も感じた羨ましさが再び私の中に湧いてくる。
私の記憶の片隅にいるままの、華奢で綺麗な女の子。
大きく輝いている瞳には、純粋な明るさだけではなくて、子供には似合わない気遣いや遠慮が見える。
その瞳にも私は見覚えがあって、同時に胸がつきんと、痛む。
「璃乃ちゃんだよね」
胸に蘇った記憶の中の名前を手繰り寄せながら呟くと、女の子は大きく頷いて
「そうだよ。覚えてくれてたんだね」
小さく飛び上がって嬉しさを見せてくれた。
私の記憶の中の彼女よりも、かなり身長が伸びて、真ん丸だった顔も、ほんの少しシャープな感じ。
相変わらず細い体だけど、以前のような青白さは感じられないし、桃色の頬からは、元気になったんだな、と思わせる明るさも見える。
「璃乃ちゃん、元気になったんだね」
膝を曲げて、璃乃ちゃんの視線と私の視線の高さを合わせた。
にっこりと笑う璃乃ちゃんは、近くなった私の視線にほんの少し照れくさそうにしながら
「元気になってる最中なの。まだ、鼻の病気がそのままだから、お耳も聞こえにくい時があるの」
特にためらいもなく、教えてくれた。
あ、まだ治ってないんだな。
鼻の病気、以前会った時には入院するかどうか、検査をしている最中だった璃乃ちゃん。
あれから一年以上経っているけれど、まだ完治していないんだ。