いきなり王子様

『お姫様』という呼び名には全くそぐわない表情は、私にとっては当たり前のものだけど、会社ではなかなかその表情を作っていない。

入社して以来、有難くも迷惑なあだ名のおかげで私が得た足枷の一つがそれ。

お姫様にはお姫様に似合う表情と言葉づかい、それを求められるなんて面倒くさくてたまらない。

大学時代の意識そのままで入社して、すぐさま始まった新入社員研修では、初日に自己紹介の時間があった。

男女合わせて80人という同期は、研修が終われば地方への配属となるメンバーもいる。

スタッフ部門配属予定の私は、本社に残る前提だからどちらかというと気楽に構えていた。

設計担当よりも早めの配属が控えているけれど、研修よりもまずは実践で鍛えられたいと思っている私は、勝気なその性格が社会人になって災いとならないように、と友人たちからきつく言われていた。

『男らしい』という形容がぴったりの私の性格を知っている人は皆、ひやひやしながら私の就職を見守っていた。

そして、研修初日を迎え、大会議室での顔合わせと自己紹介。

内定式や入社式で顔を合わせていて、それなりに知り合いもできていたけれど、全員で各々の声を聞くのは初めての事。

緊張感と期待感がひしひしと感じられる会議室で、自分の順番が来るのを待っていた。

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