いきなり王子様
璃乃ちゃんと出会った頃、今よりも顔色も悪くて寂しそうにしていた彼女が気がかりで、しょっちゅう声をかけては一緒に散歩をしていたな、と思い出す。
あの頃からそれなりの時が過ぎて、体は成長しているのに、彼女の病気はまだ彼女の中に居座っているのか。
すぐに手術をしなければならないわけではないとはいえ、病気の影響で滲出性中耳炎になりやすく、聴力が落ちるとなれば、璃乃ちゃんにとっては大変な病気だ。
『アデノイド肥大』
小さな子供には稀に見られる病気で、鼻呼吸を妨げて睡眠障害が起きることもある。
喉の奥で大きくなったアデノイドを切除するかどうか、お医者様と璃乃ちゃんのご両親が悩んでいた頃、璃乃ちゃんが通院していた病院に私もお世話になっていた。
私はあの頃、ストレスが原因で自律神経が乱れ、眩暈を感じる事が多くて通院していた。
仕事も忙しかったし、私を好きだと言ってしつこく言い寄る男に悩まされていたのが原因。
眩暈を感じるようになった時に、最初に受診したのが耳鼻咽喉科。
混み合う外来で待っている時、隣でおとなしく座って待っていた璃乃ちゃん。
入院直前の診察を受けに来ていたらしく、そこで知り合った。
あまりにも可愛らしい容姿と、お利口さんに待っている様子が目を引いて声をかけた私に笑顔を向けてくれた彼女との関係は、その時から始まった。
久しぶりに再会した璃乃ちゃんの顔を見ながら、そんな事を考えていると。
「おねえちゃんの名前……幸せになれる名前だったよね」
どこか得意げな璃乃ちゃんの声に、はっと我に返った。