いきなり王子様
璃乃ちゃんの明るい声に、私は大きく頷いた。
「そうだよ。ラッキーセブンの『なな』。
私はラッキーな奈々ちゃん。よく覚えてたね」
ふふっと笑って璃乃ちゃんの頭を軽く撫でると、更に大きな笑顔を見せてくれた。
「璃乃、もうすぐ手術だから、ラッキーな奈々ちゃんに会えて良かった」
「手術……。そうなんだ、お鼻の手術?」
「うん。アデノイド、切るんだって」
笑っているけれど、ほんの少し震える声からは、璃乃ちゃんの不安が見え隠れしていて切なくなる。
「そうかあ。今まで手術せずに頑張ったんだね。お耳は聞こえるの?」
「大丈夫だよ。風邪をひいたら中耳炎になって聞こえにくくなったりするけど。
ちゃんとピアノの練習もできるんだ」
自慢げに話す声から、ピアノを弾く事が大好きだと言っていたあの頃を思い出す。
きっと、一生懸命練習しているんだろうな。
聴力が落ちて、ピアノの練習が思うようにできないのが悔しいと、幼いながらに涙をこらえていた璃乃ちゃん。
「だったら、あとで璃乃ちゃんのピアノを聴かせて欲しいな」
「いいよっ。昨日も先生に誉められたから、お母さんが新しい楽譜買ってくれたんだ」
小さく飛び上がって喜んでいる璃乃ちゃんは、私の手を掴んで勢いよく振り回す。
新しい楽譜に興奮しているのか、かなりのテンションの高さ。
よっぽど弾きたい曲があったんだろう。