いきなり王子様
「璃乃も、私達と一緒に璃久のサッカーを観に来ていいのよ?
璃久だって、その方が頑張れると思うから、やっぱり一緒に行こうよ」
璃乃ちゃんのお母さんは、言い聞かせるように、ゆっくりと璃乃ちゃんに言葉をかけるけれど、璃乃ちゃんは大きく首を横に振る。
「今日は、璃久がお父ちゃんとお母ちゃんを独り占めする日だから、璃乃はいいの。璃久はいっつも我慢してるから、今日は璃乃はお留守番してる」
「璃乃がおかあちゃんを独り占めしてるのは、病気だから仕方ないでしょ?
璃久だってそれはわかってるよ?」
「知ってる。璃久、私を応援してくれてるもん……。
だから、いいの。今日は璃久だけのお父ちゃんとお母ちゃんの日」
「璃乃……」
璃乃ちゃんとお母さん。
そして、璃乃ちゃんの弟らしい璃久くんとお父さん。
その関係が微妙なものに思えて、隣の竜也をそっと見上げると、唇をきゅっと結んだ竜也が、苦しげな顔で二人を見ていた。
「竜也?」
小さくそう呟くと、ほんの少し視線を揺らした。
「悪い。今日一日、俺と一緒に璃乃と付き合ってやってくれ」
璃乃ちゃんを見ながらの竜也の低い声は、切なかった。