いきなり王子様
璃乃ちゃんの食欲を満足させた後、竜也に広すぎる家を案内してもらった。
二階建の家には、10ほどの部屋があり、
「来客が多い家だから、ま、必要なんだ」
という理由だとはいえ4人家族には広すぎるほど。
会社を経営しているらしい璃乃ちゃんのお父さん。
その会社が順調だという事は、この家を見るだけですぐにわかる。
「お掃除、大変だね」
家事全般を得意とする私でさえ、この広い家を掃除するとなるとうんざりするなというのが一番の感想で、竜也はそれにくすっと笑っていた。
「掃除は、週に何度か業者にやってもらってるらしい」
「あ、そうか……そうだよね」
こんな広い家に住めるほどだから、お金は十分に持ってるだろうし、自分でする必要もないか。
「食事を用意したり、子供たちの世話は自分でやるって決めてるらしいけど、掃除くらいは誰かに頼らないと璃乃の通院も続いてるから仕方ないんだ。
無理して姉貴が倒れるわけにはいかないし」
自分の部屋を見せようと、私達よりもほんの少し前を歩いている璃乃ちゃんを見ながら、竜也は小さな声で呟いた。
璃乃ちゃんの通院。
私が璃乃ちゃんと出会った一年ほど前、その時でさえ既に病院に通い始めてから一年以上経っていると聞いた記憶がある。
とすると、今ではもう二年以上を璃乃ちゃんは病気と闘っていることになる。
当時、璃乃ちゃんのお父さんは、
『おけいこ事のように、決まった曜日にずっと病院に来てるんですよ』
明るくそう言っていたけれど、その言葉の裏側にある大変さを察するのは簡単だった。
『璃乃に、こんな面倒な毎日を送らせる事になって、かわいそうでたまらない』
耳鼻科の外来で璃乃ちゃんと知り合い、仲良くなったばかりの私にさえ言葉をこぼすほど。
思わずそう言ってしまうほどのお父さんのその苦しげな言葉は、私が抱えている過去の暗い記憶を呼び覚ますものでもあった。