いきなり王子様

『見た目は華奢で、守ってあげたくなる容姿だと自覚していますが、男勝りで勝気。お酒も大好きです。私の事は男だと思って接して下さると、見た目とのギャップも小さいと思います』

私の自己紹介は、それまで浮ついていた会議室の空気が一瞬にして固まるほどの力を持っていたようで、誰もいないかのような静けさに覆われた。

入社当時の私は、肩より10センチほど長い髪を緩く内巻きにふわりとさせていて、色白の肌、大きく潤んだ目と相まって。

まるでおとなしい『お姫様』のごとき外見に心惹かれる男性や、嫌悪感を持つ女性達の視線が集まっていた。

どこか私を『お姫様』として勝手に想像してみていたその視線は、私の言葉によって手折られる事となったけれど。

その時、私の隣にいた真珠だけがくすりと笑い。

『うんうん。そんな匂いがしてたよ』

とぽつり。

私が見かけ倒しのお姫様だと見抜いていた。

それはきっと、彼女自身『女王様』と呼ばれるほどに整った、そして強気な瞳の力の持ち主であるにも関わらず、その本来の姿は繊細で柔和。

一歩下がって周囲への気遣いを見せる、たおやかな女の子だから。

見た目と中味の違いに傷つくことを諦めながら、それでもどうにか期待に応えながら生きている、そんな真珠と私は会社のツートップと呼ばれながら、複雑な心境の中過ごしてきた。
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