いきなり王子様


「璃乃ちゃん、いつ入院するの?」

小さな声で聞くと、

「来週の火曜日。手術は翌日」

竜也の低い声が返ってきた。

「手術自体は難しいものではないらしいけど、やっぱり心配だよな」

「そうだね」

明るく自分の部屋に案内してくれた璃乃ちゃんは、手術を控えている不安なんて全く感じられないけれど、きっと心の中は緊張感でいっぱいのはず。

「奈々ちゃん、見て。璃乃が描いた絵、学校で誉められたんだ」

「え?どれ?」

自慢げに胸元に掲げている絵は、虹と湖が描いてあって、蝶々や鳥が飛んでいる。

色とりどりの花も咲き乱れているその絵には、とても暖かな風の流れが感じられるようで思わず見入ってしまうほど。

小学生の絵には思えないほどの才能を感じてしまう。

言葉なくじっと見ている私に、璃乃ちゃんは不安げな声をあげた。

「奈々ちゃん、気に入らない?」

「え?あ、ううん、ううん。
すっごく上手に描いてあるからびっくりしちゃったの。
奈々ちゃん本当に絵が上手だね。私が奈々ちゃんの学校の先生でも誉めるよ、きっと」

膝を折って、璃乃ちゃんの視線の高さに合わせると、彼女はほっとしたように笑った。

「ほんと?璃乃ね、大きくなったらピアニストか絵描きさんになりたいの」

「そうか。こんなに上手に絵を描けるなら、それはきっと叶うね。
それに、ピアニストと絵描きさん、両方になっちゃえばいいんだよ」

「両方?」

「そう。璃乃ちゃんが頑張れば、両方なれるよ」

私のゆっくりとした口調に、璃乃ちゃんは何か感じるものがあったのか、ぎゅっと顔を崩すと、そのまま大きく笑って頷いた。
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