いきなり王子様
広い庭には、一人乗りの、白いブランコがあった。
「お金持ちの象徴って感じ」
思わず呟いた私に、ちらりと視線を向けた竜也は、同意するように笑う。
「璃乃、一人で乗るのか?俺が押してやろうか?」
ブランコに座って体勢を整えている璃乃ちゃんに声をかけた。
竜也は、璃乃ちゃんの背後に近づき、今にもその背中を押そうとしているけれど、それを察した璃乃ちゃんが
「やだっ。おにいちゃんが押したら力が強すぎてすっごく上までブランコが行っちゃうから怖い。
一人でこげるからさわっちゃやだ」
体をばたばた揺らしながら大きな声で拒んだ。
その声からは本気で拒否する気持ちが伝わってきて、竜也に背中を押される事が心底怖いようだ。
「でも、璃乃一人じゃなかなか揺れないぞ」
「いいの。璃乃が一人でこげるように練習するの。
おにいちゃん、璃乃が怖くて叫ぶのを面白がるから嫌い」
「嫌いって……。ブランコは上までこがなきゃ面白くないだろ?」
「面白いもん、一人で遊ぶの慣れてるし、いいの」
「ちっ」
竜也が悔しそうに舌打ちしてその場から離れると、それに安心したのか璃乃ちゃんはゆっくりとブランコをこぎだした。
白いブランコが、キーキーと音をたてながら揺れている。
一生懸命体を動かして、ブランコを前後に動かす璃乃ちゃんはとても楽しそうで、足を前後に動かしながら小さな体全体で空に向かって笑っている。
「振られたな」
そんな璃乃ちゃんを見ながら、私の横に戻ってきた竜也がぽつりと呟いた。
「竜也、本気で悔しそうだね」
くすくす笑いながら視線を向けると
「今までは、俺を一番に頼ってくる気弱な女の子だったのにな。
一人でなんでもできるようになって……かわいくない……いや、かわいいんだけど」
「ふふっ。竜也って、おじばかだね。璃乃ちゃんのほうが、とっくにおじ離れしてるのに」
「うるさい。璃乃は、俺の大切な姪なんだ、おじばか上等だろ。
それに、将来『親ばか』になる覚悟もしてるし、それが楽しみだよ」
「え、お、親ばか?」